2017年11月21日
今昔物語は当時の人々の息遣いを感じます
今は昔、藤原為時といふ人ありき。一条院の御時に、式部丞の労によりて受領にならむと申しけるに、除目の時、闕国なきによりてなされざりけり。その後、このことを嘆きて、年を隔てて直し物行はれける日、為時、博士にはあらねどもきはめて文花ある者にて、申し文を内侍につけて奉り上げてけり。その申し文にこの句あり。
苦学寒夜紅涙潤襟
除目後朝蒼天在眼
と。内侍これを奉り上げむとするに、天皇のその時に御寝なりて、御覧ぜずなりにけり。
然る間、御堂、関白にておはしましければ、直し物行はせ給はむとて内裏に参らせ給ひたりけるに、この為時がことを奏せさせ給ひけるに、天皇、申し文を御覧ぜざるによりて、その御返答なかりけり。然れば関白殿、女房に問はしめ給ひけるに、女房申すやう、
「為時が申し文を御覧ぜしめむとせし時、御前御寝なりて御覧ぜずなりにき。」
然ればその申し文を尋ね出でて、関白殿、天皇に御覧ぜしめ給ひけるに、この句あり。然れば関白殿、この句微妙に感ぜさせ給ひて、殿の御乳母子にてありける藤原国盛といふ人のなるべかりける越前守をとどめて、にはかにこの為時をなむなされにける。これひとへに、申し文の句を感ぜらるる故なりとなむ、世に為時をほめけるとなむ、語り伝へたるとや。
苦学寒夜紅涙潤襟
除目後朝蒼天在眼
と。内侍これを奉り上げむとするに、天皇のその時に御寝なりて、御覧ぜずなりにけり。
然る間、御堂、関白にておはしましければ、直し物行はせ給はむとて内裏に参らせ給ひたりけるに、この為時がことを奏せさせ給ひけるに、天皇、申し文を御覧ぜざるによりて、その御返答なかりけり。然れば関白殿、女房に問はしめ給ひけるに、女房申すやう、
「為時が申し文を御覧ぜしめむとせし時、御前御寝なりて御覧ぜずなりにき。」
然ればその申し文を尋ね出でて、関白殿、天皇に御覧ぜしめ給ひけるに、この句あり。然れば関白殿、この句微妙に感ぜさせ給ひて、殿の御乳母子にてありける藤原国盛といふ人のなるべかりける越前守をとどめて、にはかにこの為時をなむなされにける。これひとへに、申し文の句を感ぜらるる故なりとなむ、世に為時をほめけるとなむ、語り伝へたるとや。
Posted by やまと at 13:54